LaCoppiaMusica ラ・コッピア・ムジカ
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呼吸について考える

 声楽を学び始めて、最初に勉強するのが、呼吸についてではないでしょうか? リコーダーに息を吹き込まなくては音がならないのと同じように、声も、息がなくては鳴りません。その息を操るのが呼吸です。ここでは、歌うための呼吸について考えてみます。

横隔膜と肋骨

腹式呼吸と胸式呼吸の違いは?

 さて、呼吸には大きく分けて2つあります。「胸式呼吸」と「腹式呼吸」です。 この2つの呼吸、いったい何が違うのかというと、それには、「横隔膜」と「肋骨」のはたらきが関係しています。

ふつう、安静時には、おもに横隔膜のはたらきで呼吸している。横隔膜が収縮すると腹圧が上昇して腹壁が持ち上がることから、これを腹式呼吸といっている。一方、深呼吸して、思い切り空気を吸い込んだり、吐き出したりする場合には、内外肋間筋もはたらく。このときには、胸郭が拡大したり、縮小したりするので、胸式呼吸とよぶ。

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 歌う時には、腹式呼吸を使った方がいい、というのはよく聞く話ですが、上の引用によると、『安静時には』腹式呼吸をしている、とあります。私達は腹式呼吸をしようとしなくても、リラックスしているときは、自然と腹式呼吸になっているのですね。興味深かったのが、以下の話です。

医学的な話になりますが、手術のために全身麻酔をかけて横たわっている人の状態も、たいへん興味のある呼吸をします。麻酔が浅いときは胸の動きがまだ盛んですが、だんだん効いてきますと胸の動きが少なくなり、そのかわりにお腹の上下運動が主役になってきます。・・・中略・・・つまり最後まで抵抗し残るのが腹式呼吸ということは、呼吸中枢にもっとも密接的に結びついている証拠といえます。この事実は、呼吸法というものは胸式呼吸より腹式のほうが、より本質的・先天的な要素をふくんでいるからといえるでしょう。

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 歌う時に腹式呼吸がうまくできない、と悩む方もいると思いますが、意識しなくても、私達は自然と腹式呼吸をするようにできているのですね。


 一方、胸式呼吸についてはこんな記述がありました。

呼吸は浅くなりますが、素早く呼吸ができるため、運動後は息が上がって肩が上下します。これも胸式呼吸です。また、交感神経(緊張している時に優位に働く)を刺激するため、気持ちを奮い立たせたい時に適しています。交換神経が活発になると身体がシャキッとして血圧も上昇します。そのため朝目覚めた時に胸式呼吸をするとスッキリ目が覚めてきます。

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 当然ですが、それぞれに適した役割があります。違いを知ると、人間の体って本当によくできているなぁと感動すると同時に、では、歌うためにはどんな呼吸が適しているのだろうということに意識が向きます。なぜ、腹式呼吸がよいとされるのでしょうか?

自分にあった呼吸の仕方を探求していきましょう。

胸式は吸う力が強く働き、また意識的にも吸う能力を自己調節できますが、吐くのは自動的となり、吐く力を意識的には調節できません。・・・中略・・・一方、腹式では、吐く力が強く働き、意識的にも吐く能力を自己調節できます。吸う方は駄目かといいますと、必ずしもそうでもありません。というのは、吐く力に関係しているお腹の筋肉と対抗する横隔膜が作用するからです。横隔膜も一種の筋肉(筋膜)で、これは吸う力を発揮します。

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 声は、吐く息によって発せられます。そのため、吐く息のコントロールはとても大事になります。吐く力をコントロールしやすい腹式呼吸が歌うのに適しているのだとわかりますね。


 とはいえ、肋骨や横隔膜は連動して働いているものであり、胸式呼吸と腹式呼吸を区別することにさほど意味はないと思っています。それぞれの特徴を知り、歌うためにどんな呼吸の仕方が適しているか探求していくことが大切だと思います。

歌う私たちは、呼吸を単純に「胸式呼吸」「腹式呼吸」と2つに区別するのではなく、呼吸は「肋骨が動いて、横隔膜も動いて行われる』と理解しておくのがよいでしょう。

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 私達は、安静時には勝手に腹式呼吸をしているのに、いざ歌おうとすると、肩が上がってしまったり、うまく呼吸のコントロールができなかったり、呼吸法でつまずいてしまう人も多いことでしょう。それは歌を歌う時の呼吸が、安静時の呼吸とは違っているからですね。安静時にはできている、ということをヒントに、歌う時にはどうすればいいか、練習が必要になります。それは一朝一夕には行かないかもしれませんが、知識やイメージによって、必ず身に付けることができる呼吸法です。慌てず焦らずじっくり自分の呼吸法を探求していきましょう。

<参考文献>

  1. 「ぜんぶわかる人体解剖図」(坂井建雄・橋本尚詞著)
  2. 「ボイス&ボディートレーニング 声の魅力が10倍アップ」(加藤友康著)
  3. 東北大学病院生理検査センターHP コラム「第34回呼吸の大切さ」(2020年1月8日山口恵美)
  4. 「歌う人のためのはじめての解剖学~しなやかな発声のために~」(川井弘子著)