体の外側の共鳴
前回、身体の共鳴の話をしました。副鼻腔や口腔・喉、そして体中にある空洞を共鳴させる、という内容でしたが、共鳴は、身体の中だけで行われているわけではありません。自分の身体に共鳴した声が身体の外に出て、壁や天井に共鳴をして、自分の耳や第三者の耳に届いていきます。そうです。身体の外でも共鳴は起こっているのです。今日は、そんな、身体の外側の共鳴の話をしましょう。
外側の共鳴とは
今、自分の口の前に紙などを置いて、声を出してみましょう。その紙を口の前から外したときと比べて、聞こえ方はどう変わるでしょう。口の前に紙を置いたときの方が大きく聞こえませんか?
口と紙の間では声の振動が反響して音が増幅されます。同じことが壁や天井でも起きていますが、距離が短いと振動が多く、音が大きく聞こえます。紙の位置を口に近づければ近づけるほど、音が大きくなるのがわかるでしょう。私たちの声は、意識しなくても、壁や天井、床に共鳴して増幅した音が耳に届いているのです。
いろいろな部屋で歌ってみたときの声の響きを感じてみましょう。わかりやすい例は、お風呂でしょう。お風呂は狭い空間なので小さな声でも大きく聞こえ、かつ、タイルなどの硬い素材は、音を吸収せずに反射するため、何度も反響が繰り返され、残響が長く続きます。お風呂で歌うと上手に聞こえるのはこのためですね。
それに比べ、リビングや寝室で歌ったときはどうでしょう?お風呂よりも広い上に、じゅうたんやソファー、ふとんなど、音を吸収しやすい素材が多いため、響きを感じないことが多いでしょう。
外側の共鳴を生かすには
自分の内側を共鳴させることばかり意識していると、外側の共鳴を生かすことができません。自分では一生懸命声を出しているつもりでも、第三者には、小さい声か、まったく聞こえない声になってしまいます。では、外側の共鳴を生かすにはどうすればいいのでしょうか?
マイムアーティストのJIDAIさんは著書の中で、
なぜ同じ稽古・練習内容でスキルに大きな差がつくのか? それはひと言でいいますと、”エネルギーの流れに対する感覚の有無”です。
と言っています。
JIDAIさんは、ダンスやスポーツでの身体の動きについて説明しているのですが、声はエネルギーと考えると、声楽にも当てはまる部分はとても多いと感じます。特に次の記述は、そっくりそのまま声に当てはまると思いませんか?
エネルギーには大きく二つの要素があります。水に喩えますと、一つは「溜められた水」で、もう一つは、その溜められた水が流れとなる「川」ということになります。
ー中略ー
水がどれだけ多く溜まっていても、流れて川にならないことには力を発揮しません。
著書では、さらに、四つのタイプを紹介しています。
- 溜められる水が少なく、流せない人
= エネルギーがなく、外にエネルギーが出ない人
- 溜められる水は少ないけれど、流せる人
= 小さいながらもエネルギーを効率良く生み出せる人
- 溜まっている水は多いけれど流せない人
= エネルギーが自分の中で無駄に溢れ、自分を壊す可能性のある人
- 溜められる水が多く且つ流せる人
= 大きなエネルギーを効率良く生み出せる人
ー中略ー
やはり何より大事なのは流せること。②と④です。
声楽に置き換えると、こんな感じでしょうか?
- 身体の内側の共鳴が少なく外側の共鳴も生かせない = 声が小さい人
- 身体の内側の共鳴は少ないが外側の共鳴を生かしている。 = 声が通る人
- 身体の内側は十分に共鳴しているけど外側で共鳴していない。 = そば鳴りして遠くには聞こえない人。力んでいるので声帯を壊しやすい。
- 身体の内側が十分に共鳴していて且つ外側の共鳴もしている。 = 遠くまで声が通り、近くでもうるさくない声を出せる人。
では、溜まっている水を流すにはどうしたらいいのでしょうか?これについて、JIDAIさんは、
エネルギーは身体のすきまを流れます
と言っています。すきまとは、前回の内側の共鳴で説明した、副鼻腔や口腔・喉、さらに、骨と骨の間のすきまのことです。
すきまを潰す行為が力み・緊張になります
例えば、肩こりで考えてみると、肩や首や背中が、硬い、つまっている、流れていない、という感覚はイメージしやすいですよね。この硬い、つまっている、流れていない、という感覚こそが、すきまを潰しているということです。肩こりが、力みや緊張の原因になる、というのもなんとなくわかりますよね。
もし、体のどこかに凝りや窮屈な感じがあるなら、それは、マッサージやストレッチで整えることができます。これまでも、いい声を出すための身体を作るために、マッサージやストレッチをオススメしてきましたが、それは、声を外に流すためにも必要なことということがわかりますね。
声の方向
外側の共鳴を生かす、つまり、声を外に流すために、もう一つ大事なことは、声の方向です。
歌っている部屋全体に響けと思っても、エネルギーが散漫してしまいます。声の方向を明確に定めることで、エネルギーが集中し、うまく共鳴を生むことができます。
私のオススメは、歌う方向に目のある人形を置いて、その人形に向かって歌うことです。不思議なのですが、個人的には、単にモノに向かって歌うよりも、目がついている人形に向かって歌う方が、より集中でき、人形の目に語りかけるように歌うことができると感じます。結果、エネルギーが集中し、外側の共鳴を生かすことができるようになるのだと思います。
やってみるとわかると思いますが、この効果は絶大です。ぜひ試してみてください。力むことなく、その人形の方向にエネルギーを放つ感覚を実感できるのではないでしょうか。
今日は、外側の共鳴について書いてみました。声楽を勉強していると、口の開け方やお腹の使い方など、自分の内側にばかり意識が向きがちです。楽器を育てる、という意味で、それは必要なことですが、歌はエネルギーそのもの。外に出して初めて「歌」になります。なかなか声が外に流れない人は、まずは体のすきまを確認しましょう。すきまがつぶれていると感じるなら、マッサージやストレッチですきまを広げ、そのすきまを潰さないように、人形に向かって歌う練習をしてみてください。外に声を放出することも技術の一つ。日々の練習に取り入れていきましょう。
<参考文献>
「筋力を超えた「張力」で動く!」(マイムアーティストJIDAI)