LaCoppiaMusica ラ・コッピア・ムジカ
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歌に影響する肩甲骨の位置

今日は、肩甲骨とその周りの筋肉を見ていきましょう。「肩甲骨」と聞いてどんなことを思い浮かべますか?猫背や巻肩に関係がありそうと考えた方や、自分の肩甲骨周りが凝っていることを思い出した方もいるかもしれません。まず、肩甲骨とは、どんな骨なのか見ていきましょう。

肩甲骨とは

肩甲骨は、背中側にある三角形の骨です。

この骨は、脊椎にも、肋骨にもくっついていません。筋肉で他の骨格とつながっているので、可動域がとても広く前にも後ろにも、上にも下にも動くのですが、みなさんはどうでしょう?猫背の人や肩こりの人は、肩甲骨周りの筋肉が凝り固まり肩甲骨の可動域が狭くなっているかもしれません。


肩甲骨は、後面を横に走る肩甲棘(けんこうきょく)という突起の頂点「肩峰(けんぽう)」で鎖骨と関節しています。また、外側端に「関節窩(かんせつか)」というくぼみがあり、そこで上腕骨と関節しています。

どちらも関節面が小さいため、可動性が高くなっているのですね。


肩甲骨は体の前面からも触ることができます。それは、「烏口突起」という部分です。烏口突起は、小胸筋や上腕二頭筋がくっついています。以前、小胸筋を説明したときに登場しました。

肩甲骨周りの筋肉

さて、肩甲骨は、脊椎にも肋骨にもくっついていないと書きました。そのため、筋肉がないと位置が安定しません。ここでは、肩甲骨の位置を決める肩甲骨周りの筋肉について見ていきましょう。


肩甲骨を動かす筋肉はたくさんありますが、ここでは特に、「前鋸筋」と「肩甲挙筋」「菱形筋」を見ていきます。


まず、「前鋸筋」は、肩甲骨を前外側に引く働きをします。ボクシングでパンチをするときの動きです。前鋸筋は肋骨と肩甲骨の間にあり、第1~9肋骨から肩甲骨の内側縁に付着しています。ギザギザしたのこぎりのように見えるので、前鋸筋と呼ばれています。

次に肩甲挙筋を見てみましょう。「肩甲挙筋」は、肩甲骨を上内側に引いたり、背骨に向かって引っ張る働きをします。肩をすくめるような動きで使われます。肩甲挙筋は第1~4頸椎から肩甲骨(上角)についています。

最後に菱形筋です。「菱形筋」には、大菱形筋と小菱形筋があります。ついている位置が少し違うだけで働きは同じです。主な働きは、肩甲骨を安定させ、肩甲骨を背骨側に向かって引くことです。物を自分の方に引き寄せたり、アーチェリーで弓を引く動作の時に使われます。大菱形筋は、第1~4胸椎から肩甲骨の内側縁、小菱形筋は、第6頸椎、第7頸椎の棘突起から、肩甲骨の内側縁に付着しています。

「肩甲挙筋」と「菱形筋」はともに、、肩甲骨の縁に位置し、肩甲骨を背骨に向かって引っ張っています。一方、反対側に肩甲骨を引っ張っているのが「前鋸筋」です。これらの筋肉が引っ張り合うことで肩甲骨の内側の位置を決めているということになります。バランスが大事ということですね!

肩甲骨の位置は歌に影響する?

では、肩甲骨の位置は、歌にどんな影響があるのでしょうか?歌う時、肩甲骨がどのような位置にあるかは、とても重要です。なぜなら、肩甲骨は肋骨の上にかぶさるように位置しているからです。呼吸の際、肋骨の動きを妨げるような位置にあると、呼吸が浅くなってしまう可能性があります。


試しに、肩甲骨をいろいろな位置に置いて呼吸をしてみましょう。位置によって呼吸のしやすさが全く異なるのがわかりますよね。


肩甲骨の内側についている「前鋸筋」について、川井弘子さんは、著書『うまく歌える「からだ」のつかいかた』の中で、次のように言っています。

12本ある肋骨のうち、9本の肋骨の上にあるため、この前鋸筋が固まっていると、呼吸の際に必要な“繊細でしなやかな肋骨の動き”に制限がかかってしまいます。また私の経験では、この前鋸筋は中音域の響きに大いに影響しているように思われます。

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呼吸だけではなく、中音域の響きにも影響があるかもしれない、ということですね。私自身も前鋸筋がこっていると中音域が鳴りにくいと感じることがあります。また、個人的には、なんとなく調子が良くない時、前鋸筋がこっていることが多いと感じます。


また、肩甲骨の位置は、喉頭の位置にも影響があると考えられます。肩甲骨と舌骨を結ぶ「肩甲舌骨筋」という筋肉があり、これは、舌骨を下に下げる役割があります。声楽において、舌骨と喉頭の位置はとても重要です。舌骨と肩甲骨が筋肉でつながっていると思うと、肩甲骨の位置について、意識を向けたくなりますよね。

肩甲骨周りのストレッチ方法

ここまで読んで、「肩甲骨の位置を正しくしなくては」と思った方もいるかもしれませんが、すでに凝り固まってしまっている人には、なかなか根気のいる作業になります。それは、緩めるだけでは正しい位置を保てないからです。


マジックハンズ・セラピストアカデミー代表の上原健志さんは、著書の中で菱形筋について次のように言っています。

「こっているものを緩める」という視点と「弱いものを強める」という両方の視点が筋肉や姿勢を見ていく上では重要です。この菱形筋はいい例で、こっている人もいれば、弱っている人もいます。ストレッチやマッサージなど、アプローチすることはとても良いことですが、大事なのは、「何のためにアプローチするのか?」という目的をしっかり持つことなのです。

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歌う前に緩めておきたい筋肉として、これまで大胸筋や小胸筋、斜角筋などを紹介してきましたが、菱形筋は、「緩める」だけではなく「強める」という視点も必要になってきます。


ここでは、まず、肩甲骨周りの筋肉を緩めるためのストレッチ方法をご紹介し、最後に菱形筋を鍛えるトレーニング方法をご紹介します。肩甲骨周りの筋肉は、以前ご紹介した、僧帽筋や大胸筋、小胸筋のストレッチで一緒に伸ばすことができます。過去の記事も参考にしてみてくださいね。


肩甲挙筋ストレッチ

僧帽筋の記事でご紹介した二つのストレッチは、肩甲骨周りの筋肉をストレッチする良い方法です。首筋の僧帽筋をストレッチするとともに、肩甲挙筋もストレッチします。

  1. 右手を後ろに回し腰に置く。左手を頭部の右側(右耳の上あたり)に添える。
  2. 左手の重みで頭部を左前方に倒すように引き、心地よい場所でストレッチする。
  3. 反対側も同様に行う。 ※ 上体が一緒に倒れないように注意しましょう。

肘回し

肩甲骨周りの筋肉をたっぷり動かすことができます。

  1. 右手を後ろに回し腰に置く。左手は左の肩に添える。
  2. 肘で円を描くようにゆっくり回す。
  3. 反対側も同様に行う。 ※ 肩甲骨が動いていることを意識しましょう。

前鋸筋のストレッチ

大胸筋の記事でご紹介した大胸筋のストレッチは、前鋸筋もストレッチできます。

  1. 壁に対して横向きに立ち、壁側の足を少し前に出します。
  2. 肘を伸ばした状態で壁に手をつきます。
  3. 体を壁と反対側に回旋させます。心地よい伸びを感じる場所で20秒くらいストレッチします。
  4. 反対側も同じように行います。
  5. ※手をつく位置を、肩とより高い位置、肩と同じ高さ、肩より低い位置、に変えるとこで、大胸筋の伸びる位置が変化します。


では、最後に、菱形筋を鍛えるトレーニング方法をご紹介します。肩甲骨周りの筋肉が緩んだら、少しずつ筋力アップしていきましょう。

菱形筋のトレーニング

  1. 腕を横に開き、手のひらを上にする。
  2. 左右の肘と肘をくっつけるように真ん中に引き寄せる。※この時、菱形筋が使われていることを意識しましょう。
  3. 10秒キープする。

今日は、肩甲骨とその周りの筋肉について見てきました。肩甲骨への意識が高まったのではないでしょうか?肩甲骨周りが柔らかくなると、体が軽く感じられ、声も出しやすくなりますよ。日々のストレッチとトレーニングで、柔軟性と筋力を高め、健康的で豊かな響きの声を手に入れましょう!

<参考文献>

  1. 「うまく歌える「からだ」のつかいかた」(川井弘子著)
  2. 「セラピストがよくわかる魔法の教科書 解剖生理&ストレッチマスター」(上原健志著)
  3. 「学び始めに最適!!筋肉のしくみ・はたらきゆるっと事典」(坂井建雄著)