声と骨盤の関係を探る
前回の記事で、背骨についての記事を書きました。今回は、背骨の一番下にある、骨盤について詳しく見ていきたいと思います。
骨盤の構造
まず、骨盤の構造について確認しておきましょう。骨盤は、椎骨の一部でもある仙骨および尾骨と、左右の寛骨でできています。
仙骨は、左右の寛骨の間にあります。5つの椎骨が一体化したもので、上部は腰椎の一番下の骨と、下部は尾骨とつながっています。
寛骨は、腸骨、恥骨、坐骨の3つが融合して、1つの骨になっています。座る時、椅子に当たる骨が坐骨、つまり私たちは骨盤で座っているわけですね。
寛骨は骨格の分類上、下肢帯に属します。寛骨の外側にある寛骨臼に大腿骨の頭の部分が収まり、股関節を作っています。
実際に、骨盤や仙骨を触って、股関節の位置をイメージしてみましょう。股関節に触れることはできませんが、骨盤や仙骨、そして大腿骨の大転子(図参照)をヒントに股関節の位置をイメージすることができます。イメージできたら、脚を動かしてみましょう。前後左右や回転させることもできますね。
骨盤は歌にどう影響するの?
股関節は、骨盤と大腿骨をつなぐ関節です。お辞儀のように胴体を折り曲げる動作も股関節から動きます。そのため、体幹を支えるために多くの筋肉が付着しています。
例えば、大腰筋は、第12胸椎~第5腰椎から起こり、骨盤の内側を通って腸骨筋と合流して腸腰筋となり、大腿骨の小転子に停止しています。
この縦に長い筋肉は、歩行や呼吸にも関係している、からだを安定させる重要な筋肉です。
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また、骨盤の底は、骨盤隔膜で閉じられています。骨盤隔膜は骨盤底筋群ともよばれ、肛門挙筋(腸骨尾骨筋・恥骨尾骨筋・恥骨直腸筋)と尾骨筋からなっています。
骨盤底筋群は横隔膜と連動して、歌うときの呼吸に大きく関係します。
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さらに、大殿筋や多くの下肢の筋肉が寛骨や恥骨と付着しています。
骨盤が脊柱の一番下にあり、首や頭とつながっていること、さらには、さまざまな筋肉が連動して働いていることを考えると、歌うために重要な要素がたくさんあることがわかりますね。
骨盤の向きはどうなっているのがいい?
では、骨盤がどのような状態になっているといいのでしょうか?
「お尻を閉めて」とか「骨盤を立てて」などと指導を受けた方もいると思います。通常の生活をしているとき、骨盤は12°ほど前傾しているそうです。歌う時は、通常よりも直立した状態が良いとされていますが、次の書籍に書かれている通り、その状態で固定してしまうのではなく、自由自在に動くことが大切だと思います。
正しい骨盤の位置や動きはその都度変化するものであり、『この位置が正しい』というものが存在しないのです。~中略~ 骨盤にとって必要なのは『自由自在に動くこと』であり、どれだけ綺麗な位置にあったとしても、その位置からピクリとも動かないような『固定されている』状態こそ、むしろ不調を引き起こす原因になったりするのです。
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前章で、骨盤周りにはたくさんの筋肉が集まっていることを書きましたが、骨盤の傾きによって、それらの筋肉の伸縮に気づくと思います。例えば、わざと骨盤を後傾させてみましょう。首が前に出て、首の後ろ辺りに突っ張りを感じませんか?この姿勢では歌いにくいことがすぐにわかると思います。骨盤をいろいろな向きに傾けて実際に声を出してみましょう。声の伸びがよくなったと感じたとき、それが歌うのに適した骨盤の向きということです。そして、注意しなければいけないのは、その骨盤の向きを力で固定してしまわないことです。どんなに正しい位置でも、それを力で保とうとすると、必ず、別の場所に余計な力がかかってしまいます。自由自在に動くことを念頭に、いいバランスを見つけていきましょう。
骨盤の可動域を上げるための運動
そもそも骨盤の可動域が狭い人は、骨盤の動きを感じにくいかもしれません。骨盤周りとくに仙骨周りの筋肉は緩めておきましょう。そのための運動をご紹介します。
仰向け膝倒し
脚のつけ根の部分を動かすことで、仙骨周りを緩めていきます。
- 仰向けになり、足を腰幅に広げ、膝を立てます。
- 両膝を、右側に倒します。
- 続いて、左側に倒します。
- ➋~➌を10往復くらい繰り返します。
今回は、骨盤について見てきました。それぞれに気づきがあったでしょうか?骨盤の動きを解放し、自分のいい声を発見していきましょう。
<参考文献>
- 「歌う人のためのはじめての解剖学~しなやかな発声のために」(川井弘子著)
- 「歌う人のためのはじめての解剖学~しなやかな発声のために」(川井弘子著)
- 「セラピストがよくわかる魔法の教科書 解剖生理&ストレッチマスター」(上原健志著)