いい姿勢ってどんな姿勢?
私たちは子供の頃から、歌う時の姿勢について、いろいろと指導を受けてきました。「背骨をまっすぐに」「足を肩幅に広げて」「まっすぐ前を向いて」「胸を高く保って」などなど。その言葉通りにやろうとすると、体に力が入ってしまったり、呼吸がしにくくなったり、余計わからなくなってしまった、ということはありませんか?たとえその姿勢が他人から見ていい姿勢であったとしても、自分が窮屈に感じたらいい姿勢とは言えないし、きっととても歌いにくくなるでしょう。
まずは、骨格上のいい姿勢を確認しておきましょう。
では、歌う時はどんな姿勢がいいのでしょう?まずは、骨格上のいい姿勢を確認しておきましょう。
鏡に対して横を向き、くるぶし、ひざ、大腿のつけ根(大転子)、肩の中心、耳の穴(耳孔)が一直線になっているのが、キレイな姿勢です。
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実際に鏡で自分の姿を見てみましょう。思ったよりも頭が前に出ていたと感じる人もいるかもしれません。普段の姿勢との違いをじっくり感じてください。
別の観点から正しい姿勢を見てみましょう。
「百会」というツボをご存知でしょうか?百会は、左右の耳の頂上から頭のてっぺんへ向かって行って出会う場所、頭の中心にあります。この百会と、両足の内くるぶしと内くるぶしの間を貫いて通るラインが身体の中心線になります。このラインを意識すると、先ほどの骨格上のいい姿勢に近づきますね。
さらに、今度は「丹田」について確認しましょう。丹田は臓器のような実体があるわけではなく、エネルギーを司る場所とされています。実体がないので「感じる」ことしかできませんが、確実に「ある」と感じられます。場所の確認をしましょう。おへそのすぐ下に人差し指を置き、中指、薬指、小指をくっつけて並べます。おへそから真下に下がった線と小指の延長線が交わったところ。さらに、お腹の中の方に進んだ、お腹と背中の真ん中あたりです。
百会と内くるぶしを結ぶライン上に、丹田の場所を重ねてみましょう。丹田と中心線を意識することで、肩や胸に余分な力を入れることなく、結果として骨格上の良い姿勢になっているのではないでしょうか?。
外からのアプローチと内からのアプローチ
ここまでで、良い姿勢について二つのアプローチ方法をご紹介しました。一つは骨格を意識すること。もう一つは中心線を意識すること。それぞれどんな感じがしましたか?。
骨格を意識する場合、実体がある分、鏡などで確認しやすいかもしれません。しかし、その分、外からの力によって姿勢を強制しようとしてしまい、肩や背中に力が入りやすくなるかもしれません。一方、中心線を意識する場合、実体がないため感じることが必要になりますが、体の内側から姿勢を整えることになるため、肩や背中に余分な力が入りにくいのではないでしょうか。どちらも試してみてください。結果として同じ姿勢になったとしても、体の中の変化の違いに気づくことでしょう。
大切なのは、バランス感覚
歌っている時、体は自然に動くものです。どんなに良い姿勢でも直立不動のまま歌っているのは、少し不自然ですよね。大切なのは、正しい姿勢を知っていて、いつでもその姿勢に戻ってこられるというバランス感覚です。川井弘子さんの著書に次のような記述があります。
からだは常に変化しているので、それに応じて「正しい姿勢」も変化していると言えるでしょう。一方、からだ全体の筋肉が使われて積極的に直立できることと、無理な「まっすぐ」をからだに強制することは、似ているようでまったく違うことも知っておきましょう。
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その姿勢を、体が欲しているのか、あるいは、無理強いしているのか、その視点でみることで自分にとってのいい姿勢が見えてくるのではないでしょうか。
今日は、良い姿勢について考えてみました。良い姿勢とは、正しい姿勢を知って自然な動きの中でバランスを取れる体のこと、と言えるでしょうか。いずれにしても、まずは今の自分の体について知ることです。いわゆる良い姿勢とのギャップがあれば、何がどう違っているのか観察することから始めましょう。最後に、川井弘子さんの著書から、私の好きなコラムを紹介します。
からだのどこかが、窮屈だと感じられますか?もしそれに気づいたら、そこに気づきを向けましょう。そのまま少しだけ気を向け、そのままにして観察するのです。窮屈だからといって、拡げようとしないでください。そのままで大丈夫です。「今、感じること」を「そのまま」受け入れてみましょう。微妙に何か変化していませんか?新しい有益なことは、知らないうちにからだの中で始まるのです。
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<参考文献>
- 「おうちでカンタン「整体×ボイトレ」で声が大きくなる方法」(長谷川繁)
- 「うまく歌える「からだ」のつかいかた ソマティクスから導いた新声楽教本」(川井弘子著)
- 「歌う人のためのはじめての解剖学~しなやかな発声のために~」(川井弘子著)
- 「ぜんぶわかる人体解剖図」(坂井建雄・橋本尚詞著)
- 「ヴォイステクニックの真実」(加瀬玲子)